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広島地方裁判所福山支部 昭和41年(わ)43号 判決 1966年5月11日

被告人 松迫信吉

主文

被告人を懲役一年に処する。

但し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

領置してある自動車運転免許証一通(昭和四一年押第一一号の1)の判示変造部分は没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、中学校卒業後、工員をしている者であるが、昭和三八年七月一日広島県公安委員会から軽自動車運転免許証(第二二五五三八号)の交付を受けていたところ、右免許証の自動車等の限定欄に「軽自動車は四輪及び三輪の車以外の車に限る」との限定が記載してあるため、軽二輪自動車しか運転できないことに不便を感じ、同四〇年八月頃、被告人の肩書住居地で、行使の目的をもつて、広島県公安委員会の作成名義で、同委員会の記名及び押印のある前記自動車運転免許証の自動車等の限定欄に、かねて所携の福山交通安全協会発行の不透明な用紙でできている準会員証を、擅にのりでそのほぼ全面に貼りつけ、容易に剥がれないようにして前記限定欄の文言を隠ぺいし、もつて、既存の運転免許証を利用し、自己が自動車等の限定のない軽自動車免許を取得したような外観を呈する自動車運転免許証一通(昭和四一年押第一一号の1)を変造したうえ、同四一年一月二六日午後二時二五分頃、福山市延広町大建倉庫前交差点において、折柄交通取締中の福山警察署司法巡査片山正範から、自動車運転免許証の呈示を求められた際、同人に対し右の如く変造した免許証を真正に成立した文書のように装つて呈示して行使したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人の判示所為中、有印公文書変造の点は刑法第一五五条第二項、第一順に、変造有印公文書行使の点は同法第一五八条第一項、第一五五条第二項、第一項に該当するところ、右文書の変造と行使は手段、結果の関係にあるから、同法第五四条第一項後段、第一〇条により、犯情の重い後者の罪の刑により処断し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法第二五条第一項を適用して、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、領置してある自動車運転免許証(昭和四一年押第一一号の1)の判示変造部分は判示変造行為により生じたもので何人の所有も許されないから、同法第一九条第一項第三号、第二項本文によりこれを没収する。

なお、検察官は判示公文書変造罪と変造公文書行使罪との間に道路交通法違反の罪の確定裁判が介在する(被告人の前科調書及び当公判廷の供述によれば、被告人は昭和四〇年一一月一日福山簡易裁判所で道路交通法違反の罪により罰金三、〇〇〇円に処せられ、右裁判は同年一二月九日に確定したことが認められる)ことから、右各罪につき各別に求刑しているけれども、科刑上の一罪を含めて一罪か数罪かは、併合罪の適用に先行して確定すべき事項であり、犯罪の時は最後の行為の終了した時点を基準とすべきものであるから、牽連犯の手段たる行為と結果たる行為との間に他罪の確定裁判が介在しても、牽連犯は科刑上の一罪として処断され、結果たる行為が終了した時点において併合罪の適用を考慮することになり、結局牽連関係は分断されない(但し、同種の罪の確定裁判の既判力により分断されることのあるは格別)と解するので、刑法第四五条後段の適用をしないこととした。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 伊達俊一 三宅卓一 山本博文)

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